ある家庭で当たり前である「習い事」。しかし、日本社会に潜む「貧困」は、子どもたちからその「当たり前」を奪っています。

本記事では、子どもの間に広がる貧困と教育格差が、子どもたちの未来に暗い影を落としている現状を取り上げます。果たして「習い事」は、一部の子どもにとって“手の届かない贅沢品”になってしまったのでしょうか?その実態と、私たちにできることを考察します。

1. データが示す日本の貧困の現実:あなたの周囲にもいる「8人に1人」

日本社会において、経済格差の拡大は深刻な「教育格差」として顕在化しています。厚生労働省が2023年に公表したデータでは、子どもの8人に1人にあたる11.5%が貧困状態にあり、特にひとり親家庭では約半数(44.5%)が貧困下に置かれていると報告されています(*1)。この数字は、G7諸国の中でも非常に高い水準であり、あなたの周囲でも、経済的な困難を抱える子どもがいることを示唆しています。

そうした中、公的な支援が彼ら彼女らに届きにくい実情があります。例えば、行政やNPOによる学習支援プログラムの情報が届きにくかったり、利用しづらかったりすることなどが挙げられます。子どもたちが学びたい、成長したいと願う気持ちは、経済状況によって左右されてはならないはずが、実情は違うのです。

(*1)出典:厚生労働省「2022年国民生活基礎調査」)

2. 経済格差が直結する「教育格差」:習い事はもはや“手の届かない贅沢”なのか

このような経済的な困難は、子どもたちの「教育格差」に直結します。所得格差は増大傾向にあり、それに伴い学力格差も深刻化しています。経済的に困難な状況にある家庭の子どもが多い学校ほど、全国学力調査の平均正答率が低い傾向にあります。また、両親の収入が高いほど4年制大学への進学率が高くなる傾向があるなど、保護者の経済状況が子どもの学力や進路選択に影響を与えていることが示唆されています。さらに、大学進学率には地域間でも大きな格差が存在し、例えば東京都では71.5%であるのに対し、一部の県では45%程度に留まるなど、地方の交通インフラや教育環境が子どもの教育機会に影響を与えている実態もあります。

現代社会において、習い事は単なる「余暇活動」に留まりません。文部科学省の「子どもの学習費調査」や、ベネッセ教育総合研究所の調査などからも、習い事が子どもたちの学力向上だけでなく、自己肯定感、協調性、問題解決能力といった「非認知能力」を育む重要な役割を果たすことが示されています。例えば、スポーツ系の習い事は体力やチームワークを、学習塾は学力向上を、そして芸術系の習い事は感性や表現力を育みます。これらは、子どもたちが学校教育だけでは得られない多様な経験や学びを通じて、社会で生き抜くための総合的な力を養う上で不可欠な要素です。

しかし、経済格差は、この習い事の機会を大きく制限しているのす。例えば、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所の共同調査(2023年)によると、世帯収入が高いほど子どもの習い事経験数が多いという明確な傾向が示されています。また、「子どもの体験活動に関する調査」(文部科学省委託研究、2019年)では、家庭の経済状況が厳しいほど、学校外の体験活動(習い事を含む)への参加機会が少ないことが報告されており、習い事の選択が家庭の経済力に大きく左右されていることを明確に示唆しています。

習い事の機会が経済的な格差によって奪われることは、子どもたちの非認知能力を育む機会そのものを奪い、結果として将来の進学や就職、さらにはその後の人生において子どもたちを不利な状況に追い込んでしまうのです。習い事はもはや、一部の子どもにとって“手の届かない贅沢”になっていると言わざるを得ません。

3. この国の未来のために:「子どもが、ピアノをあきらめない社会を」目指して

なぜ私たちはピアノに注目するのか

習い事はもはや、一部の子どもにとって“手の届かない贅沢”になっていると言わざるを得ません。その「手の届かない贅沢」の最たるものの一つが、ピアノではないでしょうか。

ピアノは、多くの子どもたちにとって憧れの習い事であり、常に高い人気を誇っています。例えば、ベネッセコーポレーションの2024年調査では、ピアノが子どもの習い事として上位にランクインしています(小学生女子では1位)。しかし、その一方、チャンス・フォー・チルドレンの2023年調査によれば、世帯収入300万円未満の子どもは、600万円以下の家庭の子どもと比較して、音楽系の習い事の経験が3割程度にとどまるという厳しい現実が示されています。これは、習い事の中でも特にピアノが、家庭の経済状況に強く影響されていることを示唆しています。

なぜなら、ピアノ学習には多大な初期と継続費用が伴うからです。高価なピアノ本体の購入や入会金、毎月のレッスン費用など、その費用は決して安価ではありません。この経済的な壁が、多くの子どもたちの「ピアノを習いたい」という純粋な気持ちを、無情にも「夢のまた夢」に変えてしまっているのです。

しかし、ピアノは単なる趣味の範疇を超えた、子どもたちの未来を拓く可能性を秘めています。脳科学者の澤口俊之氏の研究が示すように、上下2つの楽譜の同時読みや左右の手の異なる動きを通じて脳の構造を良い方向に変化させ、IQだけでなく目標達成力、自己肯定感、粘り強さといった「非認知能力」を高める効果があることが明らかになっています。実際のところ、教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏による2016年の調査では、東京大学生の約半数(47人)が子どもの頃にピアノを習っていたことが明らかになるなど、その教育的効果は様々な形で示唆されています。

つまり、ピアノを習うことには計り知れない利益がある一方で、経済格差によって「習えない不利益」を被る子どもたちが多数存在するという、看過できない状況が生まれているのです。私たち「一般社団法人みんなのピアノ協会」は、このような状況を放置することはできない、強くそう感じています。すべての子どもたちが、経済状況に関わらず、ピアノを学び、その才能を開花させる機会を得られる社会。子どもがピアノを諦めない社会を実現すること。そこに、私たちの活動の原点があります。


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