1. あなたの隣で、静かに始まっている「分断」

「努力すれば、誰にでもチャンスがある」

かつて、多くの日本人がそう信じていました。しかし、子どもの「習い事」、特に音楽教育の世界で、その常識が静かに崩れ始めていることにお気づきでしょうか。

そして、その先に見えてくるのは、遠い国の話だと思っていた、アメリカ社会が抱える深刻な「分断」の姿です。今日は、音楽から日本の未来を考えてみましょう。

2. “反面教師”アメリカの現実:格差が固定化された社会

まず、客観的なデータから見ていきます。これは所得格差を示すジニ係数ですが、アメリカは税金などで格差を是正した後の数値でも、先進国の中でトップクラスに格差が大きい国です。

この数字が、現場で何を生み出しているのか。

アメリカでは、公立学校の予算は地域の税収に大きく依存します。つまり、ニューヨークの裕福な地区では潤沢な予算で質の高い音楽教育が提供される一方、貧しい地区(ゲットー)では、真っ先に音楽やアートの授業が削減されていくのです。

その結果、ハーバード大学のようなトップ大学に入学する学生の7割以上が、所得上位20%の家庭出身という、格差が固定化された社会が生まれています。バラク・オバマ元大統領のような成功物語は、まさに「超例外的」な奇跡なのです。

3. 日本に忍び寄る「アメリカ化」の影

「それはアメリカの話でしょう?」

そう思うかもしれません。しかし、日本もすでに「格差社会」に突入しています。日本のジニ係数や子どもの貧困率は、G7の中でも高い水準にあり、決して他人事ではありません。

そして、この格差をさらに加速させる「アメリカ化」の影が、静かに忍び寄っています。

それが、近年拡大しているAO入試や推薦入試です。

かつてのペーパーテスト一発勝負の入試は、貧しい家庭の子どもでも逆転できる、ある種の公平性を持っていました。しかし、多様な「体験」が評価される新しい入試制度は、裕福な家庭に圧倒的に有利に働きます。

これは、アメリカで起きている「体験格差が大学格差に直結し、その大学格差が、生涯にわたる収入格差に直結する」という、格差の再生産システムそのものです。この変化は、日本の教育システムが、アメリカが先に経験した道へと、進み始めていることを示唆しています。

そして、日本にはアメリカ以上に、放課後の音楽活動を支える公的な仕組みが乏しいため、音楽に触れる機会は、より直接的に家庭の経済力に委ねられてしまっているのです。

4. 結論:子どもたちが人生を諦めない社会のために

このまま静かにアメリカ型の「分断された社会」へ向かうのか。それとも、私たち市民の手で、未来への軌道修正を行うのか。

政治や行政が変わるのを待つだけでは、間に合いません。

音楽の力が持つ「希望」を信じ、まずは私たち一人ひとりができることから始めませんか。あなたの支援は、日本の未来を選ぶ、力強い一票になります。

私たち「一般社団法人みんなのピアノ協会」は、この構造的な課題に対し、「社会全体で支える」という新しい選択肢を創り出そうとしています。あなたの支援は、一台のピアノになり、一回のレッスンになります。それは、一人の子どもの「できた!」という笑顔に、そして「人生を諦めない」と信じる力に、直接変わります。

子どもがピアノを、あきらめない社会を。

その実現のために、あなたの力を貸してください。

注釈

注1. アメリカのジニ係数について

米国の再分配所得ジニ係数は約0.38で、OECD加盟国38カ国の中ではコスタリカに次いで2番目に高く、G7諸国の中では最も格差が大きい国となっています。(出典:OECD Income Distribution Database)

注2. 日本の子どもの貧困率について

日本の「子どものいる現役世帯」の相対的貧困率は12.3%で、これはG7諸国の中でイタリア(14.2%)に次いで2番目に高い水準です。(出典:厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査」、OECD Family Database)

注3. アメリカの公的な音楽教育支援について

米国には国が主導する統一的な放課後支援制度はなく、支援は3つのレベルに分散しています。①連邦政府の全米芸術基金(NEA)による助成金、②州・学区レベルの公立学校の音楽プログラム(ただし予算は地域格差が大きい)、③民間の非営利団体や慈善活動です。

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