子どもの8人に1人が貧困状態で苦しんでいる

 一昔前、「一億総中流家庭」といわれた平等な社会は様変わりし、今の日本では「格差」が広がっています。その象徴となるのが「子どもの貧困率」でしょう。

 厚生労働省は、所得が中間層の半分未満の家庭にいる18歳未満の子どもの割合を「子どもの貧困率」として3年ごとに公表していますが、直近2023年でその割合は12%。つまり、子どもの8人に1人が貧困状態に置かれているのです。

 さらに、ひとり親家庭でみると45%、半数近くが経済的に困窮している、というのが実情で、これは先進国(OECD43カ国)平均の32%を大きく上回り、貧困率が最も高いブラジル(55%)、南アフリカ(50%)などに次いで8番目に高い水準です。

習いごと格差の実態

 私ども団体が取り組んでいる「ピアノ」は、子どもに人気の習いごと。水泳、英会話と並び、様々な調査でピアノが「子どもが習いたいこと」「親が子供に習わせたいこと」の人気上位にあることを示しています。(下図、2024年ベネッセコーポレーション調べ)

 しかし経済的な理由から、ピアノを習いたくても習えない子どもが沢山いると私たちは捉えています。ある調査によると、世帯収入300万円未満の子どもは600万円以下と比較して、音楽系の習いごとの経験が4割程度にとどまるのです。(「子どもの体験格差実態調査」2023年チャンス・フォー・チルドレン調べ)

東大生の約半数がピアノ経験者

 もう一つ、興味深い調査結果を紹介しましょう。

 教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏による調査(2016年)。テーマは、「東大生100人が子供の頃に通っていた習い事」。結果は、1位水泳65人、2位がピアノの47人。東大生の約半数が子供のときにピアノを習っていたのです。

 東大生の親の世帯収入は高いと言われています。実際のところ、東大生に対するアンケート(布施川天馬氏、2023年調べ)によると、全体のうち84%が全国平均545万円を上回り、約半数(48%)が平均の2倍に上ります。やはり経済格差は「習いごと格差」を引き起こしているのです。

ピアノは脳の構造を変えて、IQと非認知能力を高める

 ピアノ学習とIQ、非認知能力の関係について、脳科学者の澤口俊之氏(武蔵野学院大学 教授)が様々な研究成果から次のように言及しています。

  • ピアノは脳の構造をいい方向に変える。例えばピアニストの脳梁(言語処理機能)は一般人の5倍
  • 習い事をやる方がIQ・非認知能力は高まる。習い事の中でもピアノが最もIQと非認知能力を高める
  • 背景としては、楽譜を上下2段同時に見て左右の手で微妙に違う動きをすること。楽譜を先読みして瞬時に覚え、後追いして弾くこと。このピアノの特性が効力を発揮。片手でやるピアニカは同様の効果はない

 つまり、ピアノは音楽性を高めるだけでなく、子どもが社会を上手に生き抜く素養を高める力を秘めているということです。

【結論】経済格差→ピアノ経験格差→IQと非認知能力の格差

 昨今の世相=経済格差が「習い事格差」を引き起こし、IQと非認知能力の格差につながる。さらに「ピアノ学習経験の有無」が更なる格差の拡大を引き起こし、進学や就職など様々な面で一定数の子どもたちを不利な状況に追いこんでいる実情がある、ということです。

 ”こうした状況を放置していいのでしょうか?”